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薪規格の提案

薪の生産と規格 (小島 健一郎書)

1973年生れ。 鳥取大学大学院連合農学研究科単位取得退学。
木質バイオマスとは今を遡ること18年前、大学4回生の春に導師に出会ったことで開眼。
木質バイオマス利用研究会を経て現在はペレットクラブ事務局長。

2011年3月11日の東北大地震から2年が径とうとしている。 震災以降、 薪の需要は伸び続けていると聞く。
ペレットが意外と伸び悩んでいるのとは対照的だ。
最大の理由は薪ストーブが非常時の熱源として魅力的だからであろう。
確かに、 自然通気式(燃焼に必要な空気を自然に任せているタイプ)のストーブやボイラーは装置の稼動に電気など外部のエネルギーを必要としないため、 燃料さえ入手できれば動かすことができる。
石油ストーブでも自然通気式のものは震災後に見直されているようだ。
しかしながら、 燃焼に必要な空気を自然に任せるということは、 燃焼効率やエミッション(排ガス)が燃料の品質に左右されることを意味する。 薪の場合、 水分が最も重要となる。
また、 取引量が増大するに従って、 正確な量の把握は消費者が価格を判断する際にも重要であるため規格化は避けて通れない状況にある。

1、国内の薪の動向

極端にいえば、薪は鋸と斧さえあれば誰でも生産できる。 それゆえ歴史も長く、 有史以来の燃料といえば薪である。
わが国の生産量のピークは1960年の5,789,000層積㎥と膨大だが、 2010年でも87,760層積㎥の生産量であり、依然として重要な木質燃料である。
この薪だが、 事実上の国内規格がないために取引単位などの商習慣は地域ごとにバラバラの状態にある。
また、 ストーブは別として薪に関する全国的な団体も存在しない。 そのようなことから平成25年1月、 日本薪協会が発足したようだが、 全国各地の薪生産者が参加するかについては様子見の状態にある。
前述したように、 薪は個人による生産と消費も多く(原木だけ調達して薪割りは自分で楽しむというスタイルを含む)、
生産者も小規模な事業体がほとんどである。 また、 消費地が生産地に近いため、ローカルに閉じた市場ともいえる。
逆に広域流通しようとすると、 かさ密度(エネルギー密度)が低いため輸送効率が悪く、 経済的でもなければ環境的にもよろしくない。 ゆえに、 地産地消が最もよく似合う。

2、国際的な規格化

薪は世界的にもメジャーな木質燃料だ。欧州24ヶ国+ノルウェーにおいて利用可能な薪資源は
年間29Mton(Million tons of oil equivalent:石油換算百万トン)で、
2006年に消費された薪は22Mton(資源量の77%)であった。 
薪資源は全バイオマス資源の19%を占めており、最大の資源である林地残材(23%)に次いで第二の資源である。ちなみに、2008年の日本のバイオマス利用合計が7Mtonなので、
いかに大量に消費されているかがうかがい知れる。
チップやペレットと同様、薪も国際規格が議論されている。
既に欧州規格(EN)は2011年3月に正式採用、現在運用にある。
また、ENより上位の国際規格(ISO)でも、ENとほぼ同じ内容で国際規格原案が作成され、現在は加盟国団体への照会段階にある。
今後、加盟団体等による投票で75%以上獲得すれば最終案としてとりまとめられ、承認の後に発行になる。 
以下、
原案の内容を紹介したい。

①適用範囲

家庭や小規模な事業所、公共施設などにおける機器で薪を利用することを想定している。
これらの機器は通常、小型であり先進的な管理システムや排ガス浄化装置がなく、
一般的に機器が専門家によって管理されておらず、多くの場合、人が住んでいる場所で利用するため、燃料の品質が重要となる。

②原料

薪の原料は、根を含まない全木、科学的に処理されていない木質残材、幹材、林地残材(大径の枝、樹冠など)に限定されており、解体材(建築廃材)は一切含まれない。

③定義

薪とは、ストーブや暖炉、集中暖房といった家庭用の木質燃料機器で使用する切断ならびに縦割りされた燃料木材をいう。薪は通常、15~100cmの統一的な長さをもつ。

④薪の仕様

薪の等級については表2を参照のこと。 
汚染されていない土壌で育った自然素材から作られる薪は汚染が極めて少ないことから、灰、窒素、硫黄、塩素と微量元素については規制がない。A1とA2クラスに属する薪はストーブや暖炉に最適で、Bクラスの薪は薪ボイラに最適である。
薪の寸法については、図1
を参照のこと。
薪の量は立法メートルやキログラムで示される。 
層積立法メートルとは、1立法メートルの空間に薪をぎっしり詰め込んだ状態をいう。
バラ状態の立法メートルは、1立法メートルの箱に薪を投げ入れた状態をいう。図3

3、日本における薪の規格化

前述した日本薪協会では、国内での薪の規格について論議を始めている。本稿ではペレット、チップと続いて、薪についてもENならびにISOを参考に自主規格案を提示したい。
直径、長さの区分はある程度日本のオリジナルでも構わないが、 
他の要素はできるだけ国際規格に準拠することで、ストーブやボイラといった機器との相性が改善され、
品質と価格の評価が可能になる。結果として消費者の利便性が向上することにより、
薪はさらに普及するのではないかと私は考える。